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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5300号 判決 1978年7月28日

原告

株式会社丸商

右代表者

内川哲易

右訴訟代理人

河崎光成

鈴木国昭

被告

有限会社広紀

右代表者

貝原厳

右訴訟代理人

三ケ尻俊雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一争のない事実

原告が宅地建物取引業を営む会社であり、被告が昭和四九年九月四日代金三九〇〇万円で訴外竹井産業株式会社に別紙第二物件目録記載の土地(竹井買受分)を、同年一一月一二日代金三八〇〇万円で訴外戸張太啓等に別紙第三物件目録記載の土地(戸張買受分)を売却したこと及び被告が原告に四〇万円を支払つたことは当事者間に争がない。

二前記各売買にいたる経過

前記争のない事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。<証拠判断略>

(一)  竹井買受分について

1  本件土地はもと訴外吉田トシの所有に属し、昭和四七年頃被告が買受けて登記名義は吉田のままにしていたものであつたが、同四九年頃被告は残代金支払のため本件土地を売却する必要に迫られた。本件土地は私道部分を除くと計四六〇坪弱の土地で、被告の希望としては吉田への残代金の支払と都市計画法による開発行為の制限(同法二九条、同法施行令一九条)にていしよくしないようにするために少くとも一六〇坪以上の売却が必要であり(したがつて残地は三〇〇坪以下となつて右開発行為の制限にふれない)、且つ一坪の単価は四〇万円というものであつた。

2  被告は同年三月頃訴外勧業不動産の徳江某に仲介を依頼したところ、同人からセンポール興産の中山真次を紹介されたので同人に本件土地売却を依頼するようになつた。中山から右のような条件で本件土地売出の件を知つた原告従業員松村吉高は前記竹井産業株式会社が本件土地のうち東側四メートル道路ぞいに奥行五間位で約一八五坪の買受を希望していると中山を通じて被告の担当従業員南里昌宏に連絡し、同人と中山及び竹井側(買主)仲介人として松村が中山の事務所で面談し、被告は竹井の買受申込を一応承諾するにいたつた。

3  ところが二、三日後に松村から右買受申込にかかる土地部分は建築許可が降りないので本件土地南側の六メートル公道に接する部分一〇〇坪を買受けたいとの申入れがなされたが、被告は売却面積の点で前記希望にそわぬため承諾を留保し、一旦交渉はとぎれた。その後松村から被告に訴外大島地所が本件土地中六〇坪の買入れを望んでいるから竹井分とあわせて売却して貰いたい旨の申入れがあつたので、被告も考え直し竹井分一〇〇坪、大島分六〇坪を抱き合わせで売却することにして同年九月四日原告事務所において被告と右二者が売買契約をなす運びとなつた。

4  九月四日には原告事務所に前記松村、被告代表者貝原厳、前記南里、中山及び買主である竹井、大島が集つたが、席上突然松村から大島が資産繰りのため買受けができない旨を告げられ、被告代表者が松村や大島地所に対してその不信義をなじる一幕もあり、南里は大島が駄目なら気の毒だが竹井分も御破産にしたいと献言したりしたものの、被告代表者の判断で竹井売却分一〇〇坪については坪三九万円計三九〇〇万円で売却することになり竹井との間にその旨の売買契約が成立した。その結果原告は竹井から仲介報酬として七八万円を受領したが、これは売買価格の二パーセントに当り、普通に行われている仲介報酬額であつた。

(二)  戸張買受分について

1  前記の如く九月四日には、結局、本件土地中一〇〇坪の売却しかできなかつたので被告側では原告側の松村に対し大島地所関係の責任をとつて貰う意味も含めて被告の希望するように残余の土地売却の仲介を要請した。松村はこれをうけて物件速報配布センターを介して本件土地の図面を多数配布して買主を探したところ、同年九月末頃訴外株式会社大城の西部基夫から照会があり、以後、西部が買主である戸張の仲介人として原告の松村とともに被告、戸張間の売買を仲介するようになつた。そしてこの頃被告は原告との間で、その仲介報酬として八〇万円を支払うことを合意し、大城の西部は原告との間で右金額から二〇万円のバツクマージンの支払をうけることを合意した。

2  ところが戸張買受分については買主の戸張が慎重な性格で買入土地の細部にわたつて細かい注文や疑問を提出して交渉が難行したため、松村はこれに対する応待、説明を次第に面倒がるようになり同年一〇月二三日頃にいたつて被告の南里に対し、あほらしくて戸張との応待はできないなどという電話をしてきた。もともと本件土地は半分が農地(畑)であるから竹井、戸張各買受分について農地転用手続が必要であるうえ二筆に及ぶ分筆、これに伴い現地での境界確定(境界石の埋込み)等いろいろの手続が必要であつたが、松村は竹井買受分については当初それらの手続に協力したものの、これに引続く戸張関係については不協力で応待はできないなどと放言してきたため、結局、戸張関係では西部と南里がねばり強く戸張を説得し、前記手続を進めて同年一一月一二日にいたり被告と戸張間に本件土地のうち六米道路ぞいの西側一〇〇坪を代金坪三八万円、計三八〇〇万円とする売買契約が成立した。右のような経過から同日契約書には仲介人として株式会社大城の名は記載されたが、原告の名は記載されなかつた(乙一)ので松村は後日戸張に頼み込んで戸張所持の同文の契約書に仲介人原告の記載を入れさせて貰つた(甲三)。被告側としては松村の前記のような態度から支払いたくはなかつたが、戸張売却部分については仲介を依頼したこともあつて、その報酬として原告に四〇万円を支払い、原告側が西部と約束していたバツクマージン二〇万円を支払わないので戸張関係での西部の功績を考え原告が支払を約していた二〇万円を支払つてやつた。なお、買主の仲介人として西部は戸張から一〇〇万円の報酬を得ている。

以上の認定事実によると竹井買受分については原告の松村がセンポール興産の中山を差し置いて直接被告の南里と連絡をとるなど積極的に仲介の労をとつたことは否定できないが、原告間に仲介委託契約が成立していたとはいえず、戸張売却分についてのみ原被告間に仲介報酬を八〇万円とする仲介委託契約が成立したものといわねばならない。

三報酬請求権の有無

そこで前認定の事実関係のもとにおいて原告の主張する報酬請求権の有無について考える。

(一)  竹井売却分

1  竹井売却分については原被告間に仲介委託契約がなされたわけではないので契約の成立を前提とする報酬請求権の発生も、もとより否定せざるを得ない。

2  そこで商法第五一二条に基づく報酬請求権について検討する。

およそ宅地建物取引業者は商人であるから、その営業の範囲内において他人のためにある行為をなしたときには商法第五一二条により他人に対し相当の報酬を請求し得るが、宅地建物取引業者が一方当事者から不動産の売却または買受けの仲介の委託を受けたに過ぎないような場合には、たとえその仲介行為によつて売買契約が成立しても宅地建物取引業者が委託を受けない相手方当事者に対し商法第五一二条に基づき報酬請求権を取得するためには、客観的にみて当該業者が相手方当事者のためにする意思をもつて仲介行為をしたものと認められることを要し、単に委託者のためにする意思をもつてした仲介行為によつて契約が成立し、その仲介行為の反射的利益が相手方当事者にも及ぶというだけでは足りないものと解される(最判昭和五〇年一二月二六日民集二九巻一八九〇頁参照)。本件についてこれをみるに前認定の如く原告は竹井買受分については買主たる竹井側の委託をうけた仲介人であつて売主たる被告側の委託した仲介人であるセンポール興産の中山を差し置いて直接被告と交渉するなど積極的に契約の成立に尽力したとはいえ、それは飽くまで買主たる竹井のための仲介というべく、客観的にみて売主たる被告のためにする意思をもつた仲介とはいえないから、商法第五一二条に基づき被告に対し相当報酬の請求権は有しないといわなければならない。

3  以上のとおり竹井買受分についてはその余の争点(抗弁)につき言及するまでもなく原告の請求は理由がない。

(二)  戸張買受分

1  戸張買受分については仲介報酬額を八〇万円とする仲介委託契約が原被告間に存在し、被告は原告に対し、そのうち四〇万円を支払つたことは前認定のとおりである。

2  そこで被告の抗弁2につき考えるに、合意解除の主張は前認定の如き松村の不協力の態度や通告だけでは、その後の事態の推移にてらして、いまだ仲介委託契約の合意解除がなされたとまでは受取り難く、<証拠判断略>。

3  次に、被告は原告に対しては働き相応に四〇万円の金員を支払つているので、これ以上の支払義務はないとも抗争するので検討する。

ところで不動産取引仲介契約において、その報酬請求権が発生するためには商事仲立に関する商法第五五〇条、第五四六条の類推によつて、その目的たる契約の成立及びその成立と右仲介行為との間に因果関係を必要とすることはいうまでもない。そして当事者間に仲介報酬額が定められ、契約の成立と仲介との間に因果関係を否定できないような場合においても、約定金全額を支払うに足りない特段の事情の存する場合には、その限度内で契約成立に対する仲介行為の占める貢献度に相応する報酬額まで減額することが許されると解するのが相当である。なぜなら、如何に報酬額の約定がなされたとはいえ、それが仲介行為の貢献度に比較して過大な場合にまでその支払を求め得るとすることは民法第六四八条第三項の法意にそむき公平の原則に反するといわねばならないし、また、仲介報酬額の定めのない場合に商法第五一二条により貢献度に応じた相当報酬の請求が許されることと対比して権衡を失するといわねばならないからである。

いま本件について、これをみれば、さきに認定したところから明らかなように戸張買受分について原告は物件速報センターを通じて買受人を探し、買主である戸張の仲介人である西部を被告従業員の南里に引き合わせたのちは殆ど仲介人としての尽力をなさず、あまつさえ被告に対し不協力の通告をするなど仲介人としての義務(宅地建物取引業法第三五条の説明義務等)に反するものがあり、契約成立にこぎつけたのは西部と南里の努力によることが大半であることを思えば約定報酬額全額を支払うに足りない特段の事由ありといわざるを得ず、戸張買受分について原告の貢献度は半分にもみたないものと解するのが相当である。

したがつて原告に対し約定報酬額の半額四〇万円を既に支払つている被告には、それ以上の支払義務はないものというべく、被告のこの点の抗弁は理由があり、戸張買受分についての原告の請求もまた理由がない。<以下、省略>

(麻上正信)

物件目録<省略>

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